パッシブ設計とは? パッシブデザインとの違いについても解説

家づくりを検討する際「パッシブ設計」に興味を持った方もおられるのではないでしょうか?パッシブとは「受動的な、受け身の」という意味の英単語です。つまりパッシブ設計とは「受動的な設計」となります。しかし受動的な設計とはどのような設計なのでしょうか。本記事ではパッシブ設計の意味と構成する5つの要素を解説します。メリットやデメリットも紹介しますので、ぜひ最後までご確認ください。

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パッシブ設計とは?

パッシブ設計とは、太陽の光や熱、自然風といった自然のエネルギーを利用して、快適に暮らすための設計手法のことです。地球環境に負荷をかけずに、省エネルギー化を実現させる設計手法の一つとして注目されています。

パッシブ手法とアクティブ手法

住まいの省エネルギー化を実現する方法として「パッシブ手法」と「アクティブ手法」が挙げられます。パッシブ手法とは、主に自然のエネルギーを活用する手法なのに対し、アクティブ手法は機械の力を積極的に使う手法です。アクティブ手法には太陽光発電などを取り付け、太陽光発電で発電しながらHEMS(ヘムス)という機械を間に置き、冷暖房や換気扇などをコントロールすることで省エネルギー化を実現する手法などがあります。大幅な省エネルギー化を目指すため、機械を使うアクティブ手法が向いていますが、初期費用に加え一定の間隔で機械の入れ替えが必要になるため、定期的に費用が発生します。

「パッシブ設計」5つの要素

パッシブ設計は自然の力を活用した手法ですが、具体的には5つの要素で構成されています。これらの要素によって、省エネルギー化と居心地の良い住まいを実現します。

断熱

パッシブ設計において、断熱性能を高めて保温性能を向上させることは最重要課題と言えます。断熱性能を決めるのは次の4つの要素です。

  • 屋根
  • 基礎

それぞれに国の基準があり、その基準に対してどの程度まで性能を求めるのかで、工事の計画を立てていきます。また気密性能や換気性能も断熱、保温性能に影響を与える重要な要素です。気密性能を向上させるには、隙間風を防ぐ必要があるため、高い建築技術が求められるケースもあります。

一次エネルギー消費量による評価に加え外皮が満たすべき熱性能に関する基準
  • 外皮の熱性能に関する基準については、ヒートショックや結露の防止など、エネルギー消費量では評価されな適切な室内温度分布の確保の観点から設け、これまでの熱損失係数(Q値)に基づく基準を外皮平均熱貫流率に基づく基準に見直す。
  • 住宅の省エネ基準適合率は住宅エコポイントにより、ようやく約5〜6割に達したところであること、戸建住宅の約4割を供給する中小工務店の適合率はその半分にも満たないと推測されることから、水準についてはH11基準程度とする。
従来の熱性能基準(Q値による基準)
  • 熱負荷(エネルギー負荷)の削減の観点から、Q値(床面積あたりの熱損失量)による基準を採用。
  • Q値を満たす標準的な仕様(設計、施工及び維持保全の指針)を提示。
Q値 = 床面積あたりの総熱損失量、熱損失により必要となるエネルギー量を評価する指標
課題
小規模住宅及び複雑な形状の住宅では、床面積に対する外皮表面面積の割合が大きいため、Q値を満たすために30cm超の断熱材の施工が必要となるケースもある。(現行基準は正気保住宅用の基準値を導入)
改正後の熱性能基準(外皮平均熱貫流率による基準)
  • 一次エネルギー消費量の算定の過程において、熱負荷(エネルギー負荷)の削減によるエネルギー消費量の削減は評価されるため、外皮の熱性能に関する基準としては、外皮平均熱貫流率による基準を採用。
外皮平均熱貫流率 = 外皮表面積あたりの総熱損失量※、外皮の断熱性を評価する指標
対応
規模の大小や住宅の形状に関わらず同一の基準値(外皮平均熱貫流率)を適用。
小規模住宅など、Q値を満たす断熱材の施工が困難な場合には、設備による省エネで基準の達成が可能。

※換気及び漏気によって失われる熱量は含まない。

Q値 家の中から熱が逃げる量(熱損失量) 小さいほど断熱性能が高い
UA値 換気の熱損失を除いた熱損失量を床、天井、窓など開口部の面積の合計で割った値(外皮平均熱貫流率) 小さいほど断熱性能が高い

自然風

自然風を取り入れることで室温を下げ、冷房にかかるエネルギーを抑えます。風を取り入れるためには、どの方向から風が吹いてくるのかを設計に組み込む必要があります。風の流れを予測し、窓の配置や大きさを考え「卓越風向」「立体通風」「ウインドキャッチャー」などを取り入れることで、理想的な通風計画が立てられます。また近隣に建物が多い場合は、特に注意して風の流れを予測する必要があるため、設計には高い知識と豊富な経験が求められます。

昼光利用

昼光を利用すると、昼間は照明の使用を減らすことができます。自然光を取り入れる方法は南北に大きな窓を配置する方法や、吹き抜けや地窓・高窓を設けるなど様々な手法があります。しかし隣の家までの距離が近い場合は採光計画とプライバシー配慮が必要です。

日射熱利用暖房

日射熱利用暖房とは、冬に日射熱を室内へ採り入れて室温を上げ、暖房として利用する設計技術を指します。日射熱利用暖房のポイントは「集熱」「断熱」「蓄熱」のバランスです。地域の気象条件を考慮した上で、この3点を高いレベルで実現できれば室温変動が少なくなり、暖房の使用を抑えても快適に過ごせるようになります。

集熱の課題 日射熱をいかに採り入れるか
断熱の課題 どれだけ日射熱を逃さないか
蓄熱の課題 どれだけ日射熱を蓄えることができるか

日射の遮蔽

暑い日差しを室内に入れないために行う日射の遮蔽は、夏を涼しく過ごすための重要な要素です。特に太陽の日射量が多い地域では日射の遮蔽は、パッシブ設計の大きな課題と言えます。日射の遮蔽は窓の日よけ対策が大半を占めているため、庇の出っ張りとその下に設置する窓の高さは緻密な計算を行った上で設計されます。また建物本体だけでなく付属部材での日よけ対策も有効です。すだれや外付けブラインド、シェード等を活用することで、窓の日よけとして効果を発揮します。

「パッシブ設計」のメリット・デメリット

パッシブ設計のメリットとデメリットを解説します。

「パッシブ設計」のメリット

パッシブ設計の主なメリットとして挙げられるのが光熱費の削減です。冷暖房や照明機器の使用を減らすことで、年間にして数万円単位で光熱費が節約できるケースもあります。しかも冷暖房機器の使用を控えると二酸化炭素の排出量も減らせるため、地球環境保全に協力できます。また家の中を一定の温度に保てるのもパッシブ設計の大きなメリットです。リビングと浴室で温度変化が激しい場合、ヒートショック現象を引き起こすリスクがあります。各部屋の温度差を小さくすることは快適に暮らせるだけでなく、家族の健康を維持するためにも大切です。

「パッシブ設計」のデメリット

パッシブ設計で建てた家は、長期にわたって省エネルギー効果が持続することから、長く住むことを前提にしているケースが大半です。初期設計の段階で周辺環境の変化を考慮して大きく効果が変わらないように設計を考える必要があります。また、省エネルギーを求めすぎるあまり居住性が損なわれてしまう設計もあるため省エネルギーと居住性のバランスは重要です。
これらの理由から、パッシブ設計は設計者の手腕に左右されやすいのがデメリットと言えるでしょう。

パッシブデザインについて

パッシブ設計と類似する用語で「パッシブデザイン」があります。両者の違いは、自然のエネルギーを利用して快適な家を作るための「設計」がパッシブ設計、「概念」がパッシブデザインと言われています。ただしパッシブ設計に概念まで含まれていることや、パッシブデザインの中に設計が含まれているケースも多いため、同じ意味と解釈しても問題はないでしょう。

パッシブデザインについて詳しくはこちらの記事をご参照ください。

まとめ

パッシブ設計は省エネルギーを実現しながら、快適に暮らすための有効な手法です。アクティブ設計と比較すると初期費用やランニングコスト、地球環境へのアプローチが異なります。自然環境保全を考慮する場合、パッシブ設計が最適です。しかし環境へ与える影響を考えながら家族が快適に暮らせる家を作るのは容易ではありません。パッシブ設計を実現するためには、高い知識と技術が不可欠と言えます。

ファイスホームでは、断熱・気密などの住宅の基本性能を高めつつ、光や風などの自然エネルギーを有効に活用したパッシブデザインにより、高性能な省エネ住宅を提供しています。
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※ご紹介している内容の見解には諸説あります。